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新・個室『銀杏の間』にて ~銀だら粕漬~

甘い関係だけど、Sweetではない。この甘みの正体は何だろう?

味覚にも色々な甘さがあるように、付き合う男によって、きっと、その甘さの種類も違うのだろう。

08年-春。綾瀬ルカ(26歳)は、15歳年上の41歳の男と付き合っている。

私は、その男のことを愛情を込めて”ジジイ”と呼んでいる。

 

私は、都合6人の男と付き合ったことがあるが、内訳は、年下が二人、同い年が一人、年上が三人だ。

秘密だが、・・・年上の三人のうち一人は、妻帯者だった。

20歳から21歳になる頃の話だ。あれは・・・なんて言うか、疲れた。

年齢の割には大人びているよね、と言われるのは、きっと、そんな理由もあるのだろう。

だが、基本的に年上と付き合う方が、私は楽だ。

年上の男と付き合うと、背伸びをしなくてもいいので、素の自分でいられることが多い。

年上だから、包容力があると言うのは、幻だと思っているが、年上の男は、包容力をアピールするので、それに甘えている。

(時々、そんな彼らが”愛しいバカ”に感じることがある。そして、時々、人生について、いいことを言ったりする)

 

ジジイも多分にもれず、時々、人生について、いいことを言う”愛しいバカ”に感じることがある。

今夜、私は食事に誘われていて、『割烹ゑびす』銀杏の間で、ジジイを待っているところだ。

普段のデートなら、男に迎えに来てもらって、一緒にお店に入るのだが、『割烹ゑびす』は、別だ。

私が先に着いて、ジジイを待つ。

”大好きな彼を待っている自分”が好きな訳ではない。

女将に案内された銀杏の間で、一人待っている時に、ぼんやりと流れる時間が好きなのだ。

この部屋の雰囲気のせいだろうか。

私は、ぼんやりと考え事をする。

耳を澄ますと、デルフォニックスのラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラブ・ユーが流れている。

 

ひとつ恋が終わると、気持ちをリセットする。

それは、私の場合、消しゴムで過去を消してしまう行為ではなく、上から白く塗りつぶす行為だ。

恋だけではない。

大切な気持ちの切り替えは、いつも、そのように行われる。

 

子供の頃、12色のクレヨンケースを開くと、いつまで経っても使われない白いクレヨンがあった。

何故あるのか不思議だったし、何時、どのような時に使うのかさえ分からなかった。

・・・大人になって、今なら分かる。

真っ白く塗りつぶして、新たにスタートを切りたい時が何度もあるからだ。

 

カツカツカツカツ。スタスタスタスタ。スッ。

靴音が近づき、襖が開く。女将とジジイだ。

着物をこれ以上ないと言うぐらいキレイに着こなしている、凛とした佇まいの女将。

対照的に、品の悪さとつまらないプライドと下心と加齢臭が、隠しても隠しても、滲み出ているジジイ。

なにやら楽しそうに話しながら入って来る。

「おう、待った?」とジジイ。

「ようこそいらっしゃいませ」と女将。

私は、二人に向かって微笑みで応える。

「じゃあ、例の頼むわ」

ジジイが女将に目配せをしている。

「かしこまりました」

そう言って、女将は静かに襖を閉め、退室する。

スッ。

 

「おっ、春らしい可愛い格好をしているね。すごく似合うよ」

ジジイは、ファッションとかヘアスタイルやメイクを褒めることを忘れない。

私は、素直に嬉しく思う。挨拶のように、軽い感じで言うのがいい。

ツイてない一日も、こんなひと言で救われることもある。

「ルカ、いい女になるかどうかは、これからの3年間、どんな経験をするかが大切だ」と、41歳のジジイは言う。

「読む雑誌だって、”Ane-Can”から”Oggi”に変わるだろう?

女は、26歳から30歳が変わるタイミングなんだよ。

その間に、どんな経験をしたかで、30代の生き方が決まってしまうんだよ。

変わるタイミングなんだから、変わろうとしないとダメだよ」

「そうだね」

ジジイが、もっともらしい事を言って、私は、クールな態度でそれに答える。

言っていることが、本当かどうかは分からないが、何かのヒントになることはある。そう思って聞いている。

「そうだろう」

ジジイが嬉しそうな顔をする。

 

スッ。

襖が開き、女将が料理を運んで来る。

白い焼魚。そして、ほんのりと甘い香り。

Dscn1948

「銀だらの粕漬です」と、女将が言う。

「粕漬って・・・なんだか年寄りって感じじゃない?」

思わず口が滑って、私は「あっ!」と言って、首をすくめる。

「ルカ!失礼だぞ。・・・でも、まあ、食べてみれば分かるよ。びっくりするぞ」

「ふふふ。どうぞお召し上がりください」と、女将が微笑む。

私は、その昔食べたことがある、たら粕漬のパサパサの味を思い出している。

箸で身をほぐす。サクッ。

「あっ!」身離れの良さと、流れ出る脂の多さに驚きの声が出る。

向かいでジジイが、訳知り顔で笑みを浮かべている。

私は、大きく口を開けて、パクッ。

「美味しい!そして、上品な甘み!」

この台詞を言うと、ジジイがいい気になるのは分かっていたが、思わず出たひと言だ。

 

「そうだろう。これはさ・・・」と、言い掛けたその声に、女将の優しい声色が被さる。

「この銀だら粕漬は、小樽の地酒、田中酒造の”大吟醸寳川”の粕を使っているんですよ。

そして、漬魚を造っているのも、小樽の加工屋さん、中野水産です」

ジジイは、「オレが言おうとしたのに・・・」と小声でつぶやき、いいところを見せることが出来ず、悔しい顔をしている。

「ふふふ。美味しいでしょう?

もちろん”大吟醸寶川”の酒粕のを使っていることが味のポイントになっていますが、それ以上にポイントになっているのは・・・」

「なっているのは・・・」私とジジイは、女将の次の言葉を促す。

「実は・・・、低温で長時間掛けて、甘めの味醂でしっかりと下味を付けているんです」

「白い粕の下に、そんな秘密が・・・」

「漬魚って、焼く時に味噌とか粕を落とすでしょう。食べた時に物足りなさを感じたことってないかしら?

その点、この銀だら粕漬は、味に深みがあって・・・ふふふ」

 

ゴクリ!と、女将の説明に喉が鳴り、もうひと口食べようと、箸を近づけたその時だ。

よく見ると、粕の焼き跡がハートの形をしていることに気付いた。

「あれ?・・・ハートだよね?」と、私はジジイを見る。

「気付いた?」とジジイ。

「粕に書いたラブレターだよ」

「何よそれ!全くセンスが感じられないんですけどー」

軽くあしらいながらも、私は、嬉しく思っている。気持ちよく照れている。

本当に、ジジイは、このような細かい演出が上手い。

こんな時だ。”愛しいバカ”だなと思う時は。

 

パクッ。

プリッとした身の締まりと、ジュワーと音がしそうな勢いでしたたる脂。

私は、目を閉じ、その味を噛みしめる。

「銀だらの原料は、アラスカ産です。ワシントン以北と以南で身質が違うんですって。

やはり、北の魚の方が身に締まりもあって、脂のりも良いようです」

閉じたまぶたの裏側に、女将が優しく話してくれている姿が浮かぶ。

「中野水産は、昭和30年代より銀だら粕漬を造っているんですよ」

「えー!そんな昔から、この味を・・・」

思わず目が大きく開いてしまう歴史の長さ!

「ふふふ。この味になったのは、もっと後になってからのようですけど」

 

「さっき言っていた小樽の地酒・・・、えーと何だっけ?」

「寶川だろ!・・・女将、持って来てよ」

ジジイが普通なら嫌われそうなほど、馴れ馴れしい口調で、女将に言う。

女将は静かに微笑むが、その言葉には答えず、あくまでも自分の意思で私に微笑み、

「寶川、お持ちしましょうか?」と言う。

 

スッ。

襖が開き、女将が”大吟醸寶川”を持って来る。

升に入ったコップに注がれると、小気味良い音がする。

コッ、コッ、コッ、コッ、コッ、コッ、コッ。

コップからこぼれて、升をなみなみに満たした寳川に、そっと唇を持ってゆく。

スーッ。

優しく吸うようにして、ひと口飲む。

鼻から抜ける香りがいい・・・。フルーティーだ。

そして、なんて淡く、サラリとした味わいなんだろう。

「・・・ホ・ウ・ジュ・ン」

私は、思わずケーブルTVで観た”セーラー服と機関銃”の薬師丸ひろこの「・・・カ・イ・カ・ン」のような口調になる。

 

ジジイが私の目を見つめる。

「どうだ、ルカ。美味いだろう?

酒米を極限まで磨くのが、大吟醸だ。精米歩留りは、50%以下。

米を磨くと、タンパク質、脂肪が落とされ、雑味のない洗練された味になる。

しかし、50%以下となると、発酵に必要なミネラル分、ビタミン類も失われるし、お米の個性も活かしにくくなる。

そこで、大切なのは何だと思う?」

「・・・」

「その後の工程だよ。低温の長期発酵。

・・・どれだけ慎重にやるか。どれだけ徹底してやるか。どれだけ神経を集中出来るかだ・・・。

ルカは、・・・大吟醸か?

人生は、本気になって楽しまないともったいないよ」

そう言って、笑う。

 

私は、もう一度、ハートの形の焼き跡がついた、白い銀だら粕漬を口に入れ、目を閉じて、ゆっくりと味わう。

そして、その白色の下に隠された無限の色と、重ねられてきた時間の意味を感じる。

・・・もっといろいろな経験をしよう!

リセットされた心が、鮮やかに彩られてゆくように・・・。

 

Dscn1940  

中野水産の『銀だら粕漬』は、トドックと店舗で好評発売中です。

 

”新・個室『銀杏の間』にて”は、今回で終了です。

また、いつか。

コメント: 4

鹿to 2008年5月 6日 09:24

毎回楽しみに読ませて頂きました。

     ・・・が、

突然終わらないでくださいよ~!
僕の楽しみ奪わないで~

松紫 2008年5月 6日 14:48

鹿toさん、あたたかいコメントありがとうございます。
もっと早く言っていただければ、あと5話ぐらい延長したかもしれません(なんて)。
今回は、12色の色が隠しテーマになっていましたので12話で終わりにしました(面倒臭いと思いますが、読み返すと分かります)。
しばらく充電です。
では、またいつか。
ありがとうございました。

KAZU! 2008年5月 7日 03:35

松紫さん!お早う御座います!充電期間であればしかたが無いですね!!??でも、継続は約束してくださいね!12色は色の基本色ですよ!だから、12話では終わる訳が無いですよね??!それに「人生模様は!ましてや、男女の仲は語り尽くせない位、一人一人のストーリーが在りますよね!」
頑張って下さい!次回まで充分充電して来て下さい!楽しみにしています!64億分の一の出会いに
感謝して!!オーボワール!ムツシュ!ア・ヴイアント!!

松紫 2008年5月 7日 19:08

KAZU!さん、励ましのお言葉ありがとうございます。
充電期間が放電期間にならないように頑張ります。
毎回、あたたかいメッセージ嬉しかったです。
では。

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