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新・個室『銀杏の間』にて ~生からつくった噴火湾産無着色たらこ~

鈴木京子(58歳)は、今夜の食事に着て行く服がなかなか決まらず、1時間近く、あれこれと悩んでいた。

結局、白と黒を基調にした上品なプリント柄のワンピースに、ベージュのトレンチコートと黒のパンプス。

アクセサリーは、パールのネックレスを着けることにした。

玄関先で、30年連れ添ってきた夫に「一体、何時間掛かっているんだよ」と、小言を言われる。

「いいじゃない。今日ぐらい」

そんな小言に、笑顔で応える。

服を選ぶのに時間が掛かったのには、理由がある。

今夜、私の誕生日に、夫が美味しいものをご馳走してくれると言う。

素直に嬉しかったので、オシャレをして出掛けたかったのだ。

地下鉄を降り、夫と肩を並べて、しばらく歩く。

都会の隠れ家的な一室と、話題になっている『割烹ゑびす』銀杏の間へと向かう遊歩道には、僅かな雪が残っている。

それでも、時々吹く風には、春の匂いが含まれていて、なんだか優しい気持ちにしてくれる。

「・・・久し振りのデートね」と、おどけて言うと、

夫は「ああ」と、気のない返事だ。

 

銀杏の間に、パーシー・スレッジの”男が女を愛する時”が極々、小さな音量で流れている。

「ようこそいらっしゃいませ」

スッと、襖が開き、着物姿の女将が入って来る。

背筋がシャンと伸びた凛とした佇まいに、意思の強さが感じられる。

向かいに座る夫の顔が緩んでいる。

(・・・こんな表情もするんだ)と、正直に思う。

女将がそんな私の表情を察して、嫌味のない笑顔を私に、そして、夫に送る。

 

〆張鶴がコップに注がれると、コッ、コッ、コッ、コッと、小気味いい音を立てる。

お通しで出てきたのは、飾りっ気のない色をした”たらこ”だ。

Dscn1907

鮮やかな赤色ではなく、淡いピンク色をしている・・・。

たらこを見つめる私と夫を見て、絶妙の間で、女将が説明を始める。

 

「これは、生から作った無着色のたらこなんですよ。

普通、たらこって、発色剤の亜硝酸塩とか、赤色102号、黄色5号の着色料を使用しているものなんですけど、

これは、沖縄産の天日塩だけを使って、熟成させた”たらこ”なんです」

「へー」

私と夫は、ハモって、子供っぽい返答をする。

「もちろん、原料にもこだわっています。

日本近海で有数の助宗だらの産地、噴火湾産の原卵を使用しています。

助宗だらの漁は、11月~2月中旬です。厳寒の時期に大変ですよね。

良いたらこを獲る為に、刺し網漁をしているんですよ」

「なるほど・・・。塩のみで作っているから良い原料じゃないと、良いたらこに成らないんだな」。

夫が得意気に言う。

出会った頃から、知っていることは得意になって話していた。・・・変わってないなあ。

「まったく、その通りなんです。よくご存知でいらっしゃる」と、女将が言うと、益々、得意気な顔になる。

荒い鼻息が聞こえて来そうで、恥ずかしい。

「たらこの原料にもランクがあるんですって。

最も上等なものを”真子”。このたらこ原料は、もちろん真子を使っています。

放卵直前のものを”水子”。少し水子の混じったものを”目付”。未熟のものを”ガム子”と言います」

 

フムフムと頷いて、夫が先に箸を伸ばす。

パクッ!

私は「いただきます」と、女将に微笑みを送り、箸を伸ばす。

パクッ!

「あっ!昔の味だ・・・」

私と夫がハモって言うと、女将はケラケラと笑い、「仲がよろしいんですね。うらやましい・・・」と言う。

「加工は、古平町で行っています。たらこの加工では、歴史のある港町なんですって。

そして、昔の味の秘密は、昔ながらの”早漬け”という製法です。

塩水の漬け込み時間は、4時間です。短いでしょう。

高い塩分濃度で、短時間で漬け込むんですね。

漬け終わると、ザルに上げて、塩を馴染ませて、脱水、熟成をするんです。

それが、・・・この味になるんです」

再び、パクッ!

「なるほど。旨味が凝縮されている。表面がサラサラしていて、中心部がしっとりしている」と、得意気な顔の夫。

「・・・美味しい」

昔、食べたことのある味。これは・・・。

私の記憶が過去へとタイムスリップをして、思い出の糸をたぐり寄せる。

私は、静かに目を閉じる。

「気に入って頂けて良かった・・・。お櫃とお茶碗を置いていきますので、どうぞ」

そう言って、女将が静かに襖を閉め、出て行く。

スッ。

 

「あっ!」

「なんだよ!びっくりするじゃないか!」と、夫が言う。

私は、思い出した。

ふふふ、と微笑み、夫を見つめると、「なんだよ!気持ち悪い!」と言って、ソッポを向く。

 

あれは、34年前。初めてのデートの時だ。

話し始める前に、〆張鶴を一杯。

グビリ!

「あなた、憶えてる?

初めてのデート・・・。ドライヴして、桜を見に行ったこと。

まだ二人とも感情が子供で、淡いピンク色の想い、って感じだった頃の話ね・・・。今では、すっかり”どどめ色”だけど。

スバル1000スポーツセダンって車で。

あなたは、買ったばかりの車だからって、はしゃいで、はしゃいで。

得意気な顔をして、この車は、ここが違う!あれが違う!って、何度も言ってたの。

今みたいに、音楽聞いてドライヴって時代じゃないから、車の話ばかり聞かされていたの思い出すなあ。

右手には、海が広がっていて。水面に太陽の光がはねて、キラキラときれいだったなあ。

左手には、サラブレットの牧場があって。こっちは、緑の芝がキラキラしていた。

その時、馬ってきれいだなあと思ったり・・・。

ふふ。意外と憶えているものね」

そんな思い出話を、夫は、優しい表情で聞いている。

私と目が合うと、「日本酒、美味しいなあ」と、独り言のように言い、グビリとやっている。

 

「なかなか、桜の樹が見つからなくて・・・。

適当に公園を見つけて、お弁当にしようって。

私は、ミートボールと卵焼きとトマトとおにぎりを作ったのよ。

卵焼きが甘過ぎるって、怒ったの憶えてる?

おにぎりが美味しいって、言ってくれて・・・。

これさ・・・ふふ。

その時のたらこの味がするね」

 

「びっくりしたのは、これから。

桜が見つからなくて、もう帰ろうって言って。そして、角を曲がったら、そこが桜並木になっていて・・・。

本当に目の前に、パーッと広がっていて。

桜のトンネルみたいで。

その中をくぐるように、ゆっくりドライヴしたの。

映画のワンシーンのように、桜の花びらが舞っていて、きれいだったなあ・・・。

私とあなたの始まりは、この日の桜並木のドライヴからなのね、きっと。

淡いピンク色の思い出ね・・・」

 

夫は、恥ずかしそうに微笑んだ後、たらこがのったご飯へと視線を移す。

Dscn1902

そして、ひと口。

パクッ!

静かに目を閉じ、夫もタイムスリップしているようだ。

ゆっくりと目を開け、私に優しく微笑みかけ、マジマジと見つめてくる。

「・・・そんな洋服持っていたのか。・・・似合っていて、いいんじゃないか・・・。

・・・今まで、どうもありがとう。

あと、もう少しだけ・・・、一緒にドライヴをしよう」

 

Dscn1900  

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コメント: 2

KAZU! 2008年4月 1日 13:30

松紫さん!お早う御座います!今回のは!私自身の
学生時代の事が走馬灯の様に甦る内容ですね!
本当に日本の男は自分の気持ちを上手く伝えられないですよね!こう云う時に「俺は今もお前に毎日トキメイているよ!」な~~て言えると日本の男も
世界に通用するんだけどね!!

松紫 2008年4月 1日 17:27

コメントありがとうございます。
男が男でいるためには、経験と度胸と愛嬌が必要です。KAZUさんは、それを体現していて、本当に羨ましい限りです。まだまだ修行を積まないといけないと思う今日この頃・・・。
では。

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