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新・個室『銀杏の間』にて ~さんま米ぬか本漬~

【3日前の出来事・・・。】
びっくりした!
竹下奈々子(33歳)は、仕事を終え、スマップの新曲を鼻歌でハミングしながら、いつものパーキングへと向かっていた。
そこには、にわかに信じ難い光景があった。
愛車のショコラ色のマーチの窓ガラスが割られていて、まさに男がゴソゴソと中を物色している最中だったからだ。
私は、初めて体験する状況に、どうしたらいいのか分からなくなり、軽いパニック状態に陥っている。
これは私のマーチだろうか?
深呼吸して、ここがいつものパーキングで、いつも駐車している番号であることを確認する。
・・・間違いなく私のマーチだ。
どうしたことか、窓ガラスが割られている!壊されている!
そして、男が何かを盗もうとしている!
この場合は、「キャー!」と叫ぶべきだろうか?それとも「泥棒!」と叫ぶべきだろうか?
少しづつ冷静さを取り戻し、襲って来た時、すぐに逃げられるように相手との距離と逃げ道を確保する。
大きく深呼吸をひとつした後、私は、キャーでも、泥棒!でもなく、こう言った。
「誰ですか!何やっているんですか!」
男は、ビクリ!と反応して、ゆっくりとこちらを見た。
 

私は、またびっくりした!
こちらを見た男の顔に、見覚えがあったからだ。
土門裕也という名前で、高校1年生の1年間だけ同級生だった男だ。
右の唇の端に特徴があった。
小さな頃、折りたたみのパイプ椅子に唇を挟んで、縫ったのだと、その傷跡の事を語っていた。
「・・・土門君?」
「・・・聞き覚えのある声だな。竹下か?」
薄暗い中で、ギロリと鈍い眼光が見える。
私は、「何やってるのよ!」と言って、土門君の方へと駆け寄る。
「待て!来るな!車の修理代は返す!誰にも言うな!」
そう言って、薄暗い闇の中へと消えて行った。
追うようにして、私はマーチの方へと走ると、そこに既に土門君の姿はなく、パラパラと床に散ったガラス片があるだけだった。
「・・・何なのよ!もう!・・・私のマーチが・・・」
 
【そして、今夜・・・。】
ローリング・ストーンズの悲しみのアンジーが、切なく流れている割烹ゑびす『銀杏の間』で、土門君と私は食事をしている。
いや。正確には、違う。
あのパーキングで、私のことを待ち伏せしていた土門君は、お金の入った封筒を差し出した。
マーチの修理代を払いたい、とのことだった。
「これで直してくれよ」と、強張った表情で言い、急いで立ち去ろうとするのを、私が引き止めたのだ。
理由が聞きたかった。
何でこういうことをしたのか?
何が土門君をこうさせたのか?
私は、3日前、目の前で起きていた信じ難い光景の理由が欲しかった。
心の整理をしたかったのだ。
 
「当然、理由はあるが、言えない理由もある・・・」
土門君が唐突にそう言うと、短い沈黙が出来て、銀杏の間の空気が張り詰める。
スッ。
その空気を逃がすように、襖が開き、着物姿の凛とした佇まいの女将が入って来た。
冷えたグラスふたつと、瓶ビールがテーブルの上に置かれる。
お皿にのっているのは、香ばしい匂いと食欲をそそる焼き色をしたさんまだ・・・。
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美味しそうな料理を目の前にすると、現実を忘れる瞬間がある。
今の私がそうだ。土門君もそうだろう。
ディズニーランドに行った時とか、コンサートの盛り上がった瞬間とか、興奮する野球のゲームを観た時に、現実を忘れる瞬間は訪れる。
魂が奪われる瞬間と言ってもいい。
 
「糠さんまですよ」
そんなポーッとした表情になった私と土門君を見て、女将が優しいトーンで言う。
「正確には、”さんま米ぬか本漬”ですけど。
原料のさんまは、当然、脂がのった道東沖のものを使用しています。
塩は、赤穂の天然海水塩です。
それを米糠と合わせます。
少量づつ、樽に漬け込みして、重石に掛けて、低温保管庫で熟成させるんです」
「・・・そうですか」と、土門君は懐かしそうな表情で応え、私は、まじまじとお皿の上の糠さんまを見る。
そして、ひと口。
パクッ。
確か、糠さんまって保存食で、食べるとしょっぱくて、1切れでご飯が何杯も食べられるっていうイメージがあったけど・・・。
しかし、これは違う!
美味しさを引き出しているって言うか、・・・美味しい!
私は、明るい表情で土門君の顔を見る。
(ちょっと食べてみてよ!美味しいから!)という表情を察知して、土門君もひと口。
パクッ。
(おっ!これは!)といった感じの明るい表情になる。
 
「1尾食べられるように、甘塩に仕上げています。
普通、糠漬けって、例えば、糠にしんとか、糠に包まれているイメージがありますよね。
この糠さんまは、糠が付いていないんです。
さんまって、刀の様な細いお魚でしょう。
解凍した時に、米糠に含まれている塩分でしょっぱくなってしまうんです。
そのような理由から、工場の方が1本1本、手で糠を落としているんです」
私は、目を閉じ、想像する。
おばあちゃんが1本づつ愛情を込めて、米糠を落としている姿が頭に浮かぶ。
「糠=おばあちゃんのイメージってあるね」
土門君が懐かしそうな表情で言う。
「糠漬けって、素材の旨味を引き出しますよね。ふふ」
そう言って、女将も懐かしそうな表情で微笑み、襖を閉める。
スッ。
 
黄土色の米糠を落とすと、中から清らかな青い光のさんまが見えてくる。
糠さんまって、そのギャップがいい。
汚れを落とすと現れてくるピカピカな部分・・・。
 
「どうしてあんなことしたの?悪い事だって、分かっているよね?」
私は、真っ直ぐな目で、土門君を見る。
土門君も真っ直ぐな目で、応える。
「・・・思い出したよ。
おばあちゃんは、糠漬け漬けるのが得意だった。
おばあちゃんのシワシワの手の中で、糠を洗い落とすとピカピカした胡瓜や茄子が現れたんだ。
・・・あまりにも美味しそうで、びっくりしたよ・・・」
「・・・」
「・・・金が必要だったんだ。・・・でも、そんなの理由にならないな。
・・・そんな金・・・おばあちゃんも喜ばないか・・・。
・・・良かったよ。初めてが、竹下の車でさ」
「・・・車じゃないよ。・・・マーチだよ」
「もし、知らないヤツの車で・・・、もし、見つかっていなかったら・・・、お金盗って逃げていたよ。
汚れるところだった・・・。どんなに洗っても、ピカピカの物なんか出て来ないぐらいに、汚れるところだったよ・・・」
「・・・良かったね。・・・まだ、洗えばピカピカのハートが出てくるかもね・・・」
 
しばしの沈黙が出来て、私達は、食べかけの糠さんまを見つめている。
「・・・良かったよ。竹下の車で」
「・・・車じゃないよ。・・・マーチだよ」
 
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