生活協同組合コープさっぽろで、安心生活はじめましょう。

ホーム > 個室「銀杏の間にて」 > 新・個室『銀杏の間』にて ~八戸沖真さば使用しめさば~

新・個室『銀杏の間』にて ~八戸沖真さば使用しめさば~

都会の隠れ家的一室『割烹ゑびす』銀杏の間。
竹内結香(42歳)は、向かいに座る息子の友哉を見て、ホッと、安堵の表情を浮かべている。
友哉の前には、水色のラムネの瓶があり、瓶の中では、小さな気泡がひとつ、またひとつと上昇している。
その様子を私は、イタリア産の赤ワインを飲みながら眺めている。
今夜は、卒業祝いと高校の合格祝いを兼ねて、親子二人での食事会だ。
ホッと、安堵したのは、不安の裏返しでもある。
随分と、手探りで子育てをしてきたので、大切な事を伝えることが出来ているか、いつも不安が付いてまわった。
それは、今でも変わらない・・・。
ただ、一区切りついて、今まで大きな事件もなく、無事でやってこられたことを、本当に良かったと思っている。

 

室内には、会話の邪魔をしない静かな音量で、オーティス・レディングのドック・オブ・ザ・ベイが流れている。

 

 

私は、息子を「トモ君」と呼び、トモ君は、私のことを「母さん」と呼んでいる。
最近、一度だけ「おふくろ」と呼ばれたことがあったが、「気持ち悪いからやめてちょうだい!」と私が言うと、
トモ君は、言い返すように、「トモ君って呼ぶの、子供っぽいからやめてくれ!」と強い口調になった。
あーこれが思春期なのかなぁ、などと考えたが、私は、「トモ君」という呼び方を変えるつもりはなかった。
思春期の男の子の気持ちなど分からない。
分からないと思うことは、考えないようにしている。
離婚して、トモ君と二人きりで暮らすようになってから、もう10年が経つが、離婚した当初から不安に思っていたことがある。
”男の子”から”男”へと成長してゆく過程を、どういう風に過ごしていけばいいのか。正直、自信がなかった。
”深く考えないようにする””なるようになる”と言うのが、今の私の結論だ。
 
母さんと二人で暮らすようになってから、もう10年か・・・。
なんて言うか・・・、オレ達親子は、結構仲がいい。
オレのことを子供扱いして、憎らしいと思うこともあるけど、波長が合うって言うか、基本的には仲がいいと思う。
母さんは結構キレイで、友達から「お前の母ちゃんキレイだよな」などと言われると、照れ臭いが、嬉しい。
水商売をしているせいもあって、母さんはよく笑う。お調子者で、すぐ感情が顔に出るし、子供っぽい。
この前だってそうだ。
「トモ君って呼ぶの、子供っぽいからやめてくれ!」って、ちょっと強い口調で言ったら、「一生、トモ君って呼んでやる!」って、口を尖らせてムキになっていた。
本当に子供っぽい。同い年の女子の方がよっぽど大人だと思う。
・・・今のオレの15歳の目線。・・・生意気かな?
 
スッ。
襖が開き、着物の女将が料理を運んできた。
お皿の上で、青、水色、シルバーのメカニックな輝きを放っているのは、しめさばだった。
Dscn1884
オレはまだ食べたことはないが、母さんは「美味しそう」と言い、「日本酒頼んじゃおうかしら?」などと言っている。
間もなく、栃司だか三千盛だか、相撲取りみたいな名前の地酒と、升に入ったコップが運ばれてきて、女将がそれになみなみと注ぐ。
着物の女将は、動作のひとつひとつがキビキビとしていて、無駄がない。
キレイな顔立ちのせいもあるが、怒ったら怖そうだと、オレは思った。
 
「このしめさばは、9月から10月に八戸港に水揚げされた真さばで造っています」
そう言って微笑み、女将はしめさばの説明を始めた。
オレは、しめさばを食べるのが初めてだったので、真剣に耳を傾けた。
「さばは、春頃に産卵して、餌を食べながら北上して来ます。
北海道沖へと北上するんですが、その間に、脂肪が皮と身の間に蓄えられるんです。
9月から10月に南下が始まって、その脂肪が身に刺し込んでいきます。
だから、秋のさばは、美味しいと言われるんですね。
中でも、八戸沖で水揚げされる戻りさばが特に良いって言われています。
国内産の真さばは、大型サイズになれば、脂質も高いとされています。これは、600g以上のさばを使っています」
1尾600g以上の真さばか・・・。それはすごい!
「そして、この味・・・。
酢は、美濃の老舗、内堀醸造の酢を使っています。
内堀醸造さんは、”良い酢造りは、良い酒造りから始まる”と考えているんですって」 
う~ん。深いね。
「塩は、赤穂の塩です。
古くから塩田が栄え、入り浜式製塩で塩が造られています。
大きな柄杓で、海水を砂に撒いている映像を見たことありませんか?
太陽熱で蒸発させて、砂に付着した塩分を濾過するんですって」
う~ん。なんだか、大変そうだな。
オレは、初めて食べるしめさばにドキドキしていた。恐る恐る一切れ、口に運ぶ。
パクッ。
そうか・・・こんな味がするのか。・・・なんて言うか、まろやか。
「どうですか?ノルウェー産のさばの脂と比較すると、くどくない脂質、切れ味のいい脂質と言えると思いますよ」
もうひと口、パクッ。
生に近い感覚!
「昔、お寿司屋さんで食べたしめさばの味がする・・・。
大量生産じゃないから、酢の使用量が少ない分、生に近い食感が得られるのかも・・・」と、母さんがもっともらしいことを言う。
スッ。
襖が閉まり、女将が遠くへ行ったのを確認して、
「大人の料理だね」とオレは、小声で言った。
 
トモ君は、しめさば食べるの初めてなんだ。
「大人の料理」という言い方が可愛くて、私は、クスリと笑った。
「あっ!今、子供扱いしたでしょ?」と、すかさず怒っている。
私は、視線をテーブルへと戻す。
しめさばが瑞々しい。青というよりは、光沢のある水色をしている。
「・・・トモ君さあ。
6年生の時に、初恋を経験したでしょう。その時、どうしてこんなに胸が痛くなるのか分からなくて、どうしたらいいのかが、分からなかったと思うの。
たった12年間の経験では、解決することが出来ない心の痛みが、そこにあったんだと思うんだ。
・・・若い経験って、いつも瑞々しいよね。
年齢を重ねてからの経験は、それが例え初体験でも、今までに経験した事柄と重ね合わせてしまう。そして、上手に対処しようとする。
大人って、つまらないなぁ・・・。
それが、初体験ならカッコつけずにドキドキとか、オロオロしている自分とか、もっと楽しんだらいいのに!
だから、トモ君もこれからいろいろと経験する訳だから、カッコつけずに真っ直ぐに受け止めた方がいいよ!」
 
・・・少なくとも、私はそういう風に生きてきた。
そういう風に生きようと決めたからだ。
離婚してから、トモ君をキチンと育てる自信がなかった。
とにかく、これからの出来事を真っ直ぐに受け止めて、真っ直ぐに伝えるしかないと思った。
今日こんなことがあって、お母さんはこう思って、こうしたんだよ。という単純な話を毎日聞かせていた。
小学校に入ったばかりのトモ君には、つまらない話だったかもしれないけど、とにかく全てを話すことが、私の子育てだった。
笑ったこと。怒ったこと。泣いたこと。感動したこと。人を羨ましく思ったこと。誰かを殺したいほど憎んだこと。虚しくなったこと。悲しく思ったこと。・・・全て話した。
 
「まだオレが子供の頃。小学1年生か2年生の頃だよ。
母さんが風邪をひいて弱っていた時、布団の中でウーウーって、苦しそうなうめき声を上げていた時は、本当に怖くてさ。
母さんが死んじゃうんじゃないかって!一人ぼっちになったら、どうやって生きていけばいいのか分からないよ!ってさ。
本当に、怖くて怖くて。・・・その時、これからの事を一生懸命考えたんだ。
どう考えても、一人じゃ生きていけないから、母さんのこと守りながら生きていかないと!って、小さな決意ってやつ。
・・・母さん、いろいろ話してくれたよね。
半分でもいいから、母さんの怒ったことや、泣いたこと、憎しみ、虚しさ、悲しみを、オレが身代わりになってあげたい。
・・・本気で、そう思っていたよ。
ねえ、中学校に入学する年の初詣憶えてる?
北海道神宮で、”身代わり守り”って言う人形のお守りを見つけた時は、迷わず買ったよ。へへ、こっそりね。
まだ6年生だったから、この出費は痛かったけど。
これで、母さんの不安や悲しみは、オレがなんとかしてやるぜ!って、思ってたよ・・・」
 
オレは、”身代わり守り”を中学校の入学式から卒業式まで、学生服の内ポケットにいつも入れていた。
今は、ジーンズの右ポケットに入っているそいつを、そっとテーブルの上に差し出す。
「これだよ」
もう随分と汚れてしまった水色の衣装を着た”身代わり守り”が、「大人の料理」しめさばの皿の横で、コトンと音を立てる。
 
「へへ、すっかり汚れちゃったけど・・・。
母さん・・・今までありがとう・・・」
トモ君が照れ臭そうに言う。
私は、とっくに胸が詰まっていて、眼の奥が熱くなっていた。
やっとの思いで「・・・生意気言って、・・・子供のくせに・・・」と言うと、こらえ切れず、両目から涙がボロボロとこぼれ落ちた。
 
Dscn1882
テイオンの「八戸産しめさば」は、トドックで好評発売中です。

コメント: 2

KAZU! 2008年3月18日 08:44

松紫さん!お早う御座います!!!今日の文章は!泣かせるね~~!それこそ!「サバ・ビアン!!」
笑い!!最近は暗いニュースばかりなので!?
本当に心温まるいい文章ですね!!処で、世の中の博学と言われる人の知識度は100万分の1%で博学だそうです!????

松紫 2008年3月18日 19:41

コメントありがとうございます。
もうすぐ4月です。新入学、新入社と、街では新しい生活が始まるエネルギーに満ちています。
気持ちも新たに頑張ろう!と思うこの頃です。
では。

コメントフォーム

誹謗中傷や悪意のある書き込み、営利目的などのコメントを防ぐために投稿された全てのコメントは一時的に保留されます。また、コメントの投稿について、詳しくは「ブログの使い方」ページをご覧ください。

Insert Emoddy tag

トラックバック: 0

この記事のトラックバックURL
http://blog.todock.com/mt/mt-tb.cgi/11399
この記事へのトラックバック一覧
新・個室『銀杏の間』にて ~八戸沖真さば使用しめさば~ from 割烹ゑびす

ホーム > 個室「銀杏の間にて」 > 新・個室『銀杏の間』にて ~八戸沖真さば使用しめさば~

ブログ内検索
お気に入り・フィード購読
個別バナー
QRコード
携帯でも割烹ゑびす
http://blog.todock.com/mt4i/ebisu/
HELPバナー
共通バナー
Google アドセンス

ページの上部へ