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新・個室『銀杏の間』にて ~徳用とろろめかぶ~

都会の隠れ家的な一室。『割烹ゑびす』銀杏の間。

極々小さい音量で、シンディ・ローパーのガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファンが流れている。

中川美穂(24歳)は、邦題は何だったかなあ?と考えて、そうだ!ハイスクールはダンステリアだ!と気付いたところだ。

ユミコとサトミとジュリも集合時間のPM7時30分に間に合って、既に、フランス産の辛口の白ワインのボトルが1本空いている。

私達4人は大学の同じサークルで、卒業してからも、誰かの誕生日とか、誰かが悩んでいる時とか、ただなんとなくとか、とにかく・・・会っている。

不思議と話題は尽きることはない。

同じような話でも、なんだかいつも新鮮だ。

サトミの話には、なぜか感情移入してしまって、ついつい熱くなってしまう。

「その男、バッカじゃないの!」

何度、この台詞を言ったか分からない。

今夜も、例によって、恋愛話で盛り上がっている。

「ねぇ、最高の理想の男って、どんなんだろうね」

サトミが楽しそうに話題を振ってくる。

 

ユミコが「美穂の彼氏って」としゃべり始めた時、

スッと襖が開き、凛として、しなやかに女将が入って来た。着物を美しく着こなしている。

「楽しそうですね」

薄っすらと、悪戯っぽい笑みを浮かべて、テーブルの上にめかぶののったおそばを4つ並べる。

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「めかぶって、体にいいんですよ」

女将の言葉に、湯気の立つ器の中のめかぶを見て、鮮やかな黄緑色だなぁ、と私は思った。

黄緑色・・・。

当たり前だけど、緑でもなければ、黄色でもない。

黄緑色には、ぼんやり始まり、ぼんやりと終わるイメージがある。

春が訪れる前の緑。新緑の一歩手前の色。

秋めいて、色が変わってゆく緑。黄葉の緑。冬の一歩手前の色。

そのはっきりしない感じは、嫌いじゃない。

今の彼、シュンイチとの関係もぼんやりとしている。

それが、心地いい。

「美穂の彼氏って、ホント、はっきりしないって言うか、ぼんやりしたイメージだよね」

ユミコが悪気のない笑顔で言う。

まったくその通りだが、人に言われると、なぜかムカつく!

(この”ぼんやり”の良さが分からないなんて!バーカ!)

 

サトミが話題を振った理想の男の話になると思ったが、めかぶの話になった。

「宮城県が有名なんだよねー」

宮城出身のジュリがそう言って、得意気に、そして、恥ずかしそうに話し始める。

「宮城県のわかめの生産量って、全国2位なんだよ。リアス式海岸で海の栄養がね、豊富なの」

「めかぶって、わかめだっけ?」

「そうそう。わかめの生殖器らしいよ」

「えっ?マジで?キモーイ!」

「おそば美味しいー!めかぶのおそばって初めて」

銀杏の間に、おそばをすする音が響く。

ズール、ズルズルッ、ズール、ズルズルッ、ズルズルズルルルル、ズルズルズル。

「なんか、うるさくない?」

そんな状況に、キャッキャッと笑い合っていると、女将も微笑みながら会話に加わる。

「このヌルヌルが体にいいんですって。

フコインダンって言うヌルヌルの食物繊維が、胃の粘膜にへばりついて、胃を保護してくれるんですよ。

ピロリ菌を体の外に排出してくれるんですって。

私も、毎日食べるようにしているんですよ」

「ピロリ菌!フコインダン!聞いたことあるー!」

「ある!ある!」

「聞いていいですか?女将さんの、今までに会ったいい男って、どういう人でしたか?」

サトミが真剣な表情で聞く。

女の子同士のおしゃべりだ。話題はコロコロと変わる。

 

女将は一拍置いて、静かに私達の目を見つめている。

どの話をしようかと、悩んでいるようにも見える。

「まだ20代前半の子供だった頃だけど・・・、

私のわがままで恋人と上手くいっていない時期があって、憂さ晴らしでボーイフレンドと飲んでいたの。

そのボーイフレンドには悪いんだけど、1軒目でおでんを食べている時も、2軒目のF45ビルのバーでも、頭に浮かぶのは、恋人のことばかり・・・。

切なさと、情けなさと、悔しさと、悲しさで、頭の中がいっぱいになって、もう我慢できなくて・・・、外に出た時、声を上げて泣いちゃったの。

ちょうど、雨が降っていて・・・。なんだかドラマみたいでしょ?

その時にね・・・、

そのボーイフレンドは、涙の理由は聞かなかったの。

ただ私に「鼻出てるよ」って、間抜けな台詞を言って、ハンカチを差し出してくれたんだ・・・。

笑っちゃった・・・」

なぜか、しんみりした空気になる。

「おしまい」

優しい微笑みを4人に配った後、スッと襖を閉め、女将が出て行く。

ここの女将は気さくでいい。こういう大人になりたいと、私は、密かに憧れている。

 

「・・・いろいろあるよねえ・・・。ところで、最高の理想の男ってさあ」

再び、サトミが楽しそうに話題を振ってくる。

「名前は、竹之内翔吾って良くない?」

「これからいい男に育ててゆく意味も込めて、年下とか」

「いいねえー。21歳」

「えー?年上がいい!30歳以上!」

「おそば美味しいー」

「美味しいー」

ズール、ズルズルッ、ズール、ズルズルッ、ズルズルズルルルル、ズルズルズル。

「絶対年下だって!」

結局、21歳ということになった。

おばさんになった時、近くに若い男がいた方が、自分も若くいられるという意見が多かったからだ。

「昔、ちょっと悪かったけど、本当は優しくて、時々シャイな表情を見せる」

「いいねー」

「白いシャツが似合う」

「野球が好きで、笑顔が爽やか。スーツも似合う。ネクタイのセンスがいい」

「落ち込んでいる時に、笑わせてくれる」

「笑いのツボが一緒だといいなあー」

「大事だよねー」

「めかぶって、歯応えいいよねー」

「黄緑色が鮮やかでカワイイ」

ズール、ズルズルッ、ズール、ズルズルッ、ズルズルズルルルル、ズルズルズル。

「得意なカラオケは、ミスチルとエグザイルのバラード」

「頭がいい。おバカは、正直言ってキツイよね」

「ストイックで、ひとつの事に打ち込んでいる。努力家」

年収は多いに越したことはないが、「最低600万は欲しいよねー」と、無責任な発言も出る。

「友達のことで熱くなって、夢を語る時は照れ臭そう。みたいな」

「正義感がある。高校生の時のあだ名はジャスティス!」

「うけるー」

ズール、ズルズルッ、ズール、ズルズルッ、ズルズルズルルルル、ズルズルズル。

「健康になるよねー」

「はっきりしない男はダメだよねー」

 

笑い合った後、私もユミコもサトミもジュリも、それぞれ理想の男と自分の彼氏を思い浮かべている。

「ハァー・・・」と、サトミとユミコの溜息。

私は、なぜかムカつく!

「でも、シュンイチだって、男らしいとこあるんだよ!」

「聞いてないしー」

声を揃えて3人がつっこむ。

再び、銀杏の間は、キャッキャッという笑い声に包まれた。

  

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