生活協同組合コープさっぽろで、安心生活はじめましょう。

ホーム > 個室「銀杏の間にて」 > 新・個室『銀杏の間』にて ~一夜漬うに~

新・個室『銀杏の間』にて ~一夜漬うに~

ヒマワリが好き。

太陽の光に輝くヒマワリ畑は、今までに何度も頭に浮かんだ風景だ。

小さい輪のヒマワリを花屋で発見して以来、結婚式は、この小さいヒマワリをいっぱいにして式場を飾ろうと思っている。

私にとって黄色は、明るい希望に満ちた未来の色だ。

桜井サチ(31歳)は、『割烹ゑびす』銀杏の間でそんなことを考えていた。

小さな音量で耳に届く、サム・クックのワンダフル・ワールドが心地良く感じる。

 

今夜、2週間前のお見合い相手と会うことになっている。

二人で会うのは初めてだ。そして、これで最後にしようと思っている。

ファースト・インスピレーションでは、いい印象を受けていない。

私の希望の未来。黄色がイメージ出来なかった。

断る理由を探すために、今夜、会うことにしたと言っていい。

 

その男は、39歳で、短足で、髪の毛の薄い、身長160cmぐらいのフラメンコダンサーだ。

「そんな職業があるんですか?」と、2度聞いたが、パブとかカフェのスタイルでフラメンコを観せるのが流行っているのだと答えた。

「アントニオと呼んで下さい」

それは、ギャグのつもりだったようだが、私がシラけた表情で「はぁ・・・」と言うと、

「・・・男鹿康二です」と、照れて自己紹介を始めた。

 

私は、フラを習っている。

9月にカウアイ島で行われるカウアイ・モキハナ・フェスティバルという名のフラの競技会に出ることになっている。

ここの女将もフラの仲間の一人だ。

私達のチームは、化粧部員やローカルFMのアナウンサー、CAなどキレイな子が多い。

今、猛練習中だ。つらいけど、すごく楽しい。

 

スッと襖が開く。

男鹿が来た。

黒いスーツに白い上質の素材のシャツを着ている。ネクタイの代わりに、シャツの胸元にフリフリが付いている。

ルックスが良い訳ではないので、着ている服が浮いて見える。

このファッションセンスは、確実に好きな感じではない。

「ゴメン。ちょっと遅れちゃったかな」と言って、男鹿は八重歯を見せて微笑む。

この無邪気な子供みたいな笑顔も、私は、確実に好きな感じではない。

「あれ?髪切った?切ってないか。ハハ。今のフリ、いいとも!みたいだった?」

このやり取り、会話のセンスも、好きな感じではない。

「・・・ヘアースタイル変えたからかな~」と仕方なく答える私の言葉をさえぎって、「ここは魚料理が美味しいんだっけ?」と聞いてくる。

人の話を聞いていない態度は、絶対に嫌いと言っていい。

会って5分も経たないうちに、断る理由は幾つも見つかる。

 

スッと襖が開き、しなやかに女将が入って来た。

瓶ビールとグラスを手際良く用意し、「一夜漬うにです」と言って、私と男鹿に微笑む。

これは、キタムラサキウニです。黄色い身が特徴で、エゾバフンウニのオレンジ色の身の濃厚な甘みと比較すると、旨みは少ないですが、とろけるような味わいですよ。

女将は、そう優しい声で説明し、私と男鹿の顔を見て、もう一度微笑む。

「美味しいそう・・・」

女将の笑顔に促されて、思わずこぼれる素直な言葉。

9月以降のうには、身の色が黒くなってしまうので、5月から8月末までに採取されたうにを原料に使っています。

私は、視線を一夜漬うにへと移し、キレイな黄色だなと、本当に嬉しい気分になる。そして、銀色に輝くご飯の上にそっとのせる。

Dscn1862

うには、利尻、礼文島産です。

北からのリマン海流と南からの対馬暖流がぶつかる、栄養が豊富な海で育つんです。

海流がぶつかるところは、栄養が豊富なんですよ。

うには、そこで育った利尻昆布を餌にしています。

「辛口の白ワインが合いそうですね」と男鹿が言い、

女将が「かしこまりました」と答える。

あっ、そうそう。キタムラサキウニは”ノナ”って言って、バフンウニは”ガンゼ”って言うんですって。

そう言って、ケラケラと笑いながら、女将は出て行った。

くだけた感じの笑い声は、フラ教室のいつもの女将の姿だ。

 

「僕、黄色って好きなんですよ」

白ワインのグラスを回しながら、男鹿が言う。

私は、思わす「えっ?」と言ってしまった。

「意外ですか?フラメンコは情熱の赤のイメージですか?赤も好きですけど、黄色い花が好きなんです。オレンジかな?」

それから、フラメンコをどうして好きになったかということと、どのくらい好きかを熱く語り始めた。

バルセロナ・オリンピックの時、スペインに興味を持ってからフラメンコを始めたこと。

フラメンコは、スペイン南部、アンダルシアに伝わる芸能だということ。

”カンテ”と呼ばれる歌がメインで、”バイレ”と言われる踊りは、その歌を表現しているということ。

踊りがメインだと思って習い始めたが、男のダンサーは少なくて、メインが歌だと知った時は、ひどくがっかりしたけど、今は、楽しさの方が勝っていて、ダンサーに成れて良かったと、心から思っているということ。

今度、アンダルシア地方に行く計画を立てていること。

そんな男鹿の話しにも、私は、聞いているような聞いていないような態度で、「へー」「そうなんだ」「すごいですね」「ハハハ」と気の無い返事をしていた。

本当は、グイッと惹かれるほど興味を持ったが、わざとそういう態度で接した。

男鹿は、しゃべるのを止めた。

 

しばしの沈黙が出来た。

銀杏の間の空気をひどく重くしている。

私から作った空気とは言え、嫌な間だった。

「・・・」

「・・・桜井さん・・・。僕のこと・・・断るつもりでしょう?」

「・・・」

「そんな目で見ないで下さいよ。・・・分かりますよ」

無邪気な子供みたいな笑顔で男鹿は、八重歯を見せて笑った。

「最後に、見て下さい」と言って、フラメンコを踊り始めた。

 

その場にスクと立ち上がり、つま先とかかとで畳の床を踏み鳴らし始めた。

タッタッ、タタダンタタダンと言うリズムが刻まれる。

そこに手の動きが加わる。

”パルマ”と言われる手拍子を打つ。

甲高い音と低音の2種類の音を器用に打ち分けて、足のリズムと溶け合ってゆく。

基本がしっかりしていて、フラメンコが好きなのが伝わってくる。

39歳で、短足で、髪の毛が薄くて、身長160cmぐらいのフラメンコダンサーが毅然とした態度で、そこにいる。

そう思った時だ。

私の耳に聞こえないはずの音楽が届いた。

フラメンコで”トケ”と呼ばれるアコースティック・ギターの歯切れ良い、明るく鋭い音色だ・・・。

弦は激しくかき鳴らされ、表板が指先で叩かれる。

情熱的なギターサウンドは、どんどんフルボリュームに成ってゆく!

そして、悲しげで、力強い歌声も聞こえてくる!

男鹿が刻むリズム、足音、手拍子が激しくなる!

そして、ピタッと止まる。

・・・。

一瞬の静寂。

鳥肌が立った。

「本当に・・・、フラメンコが好きなんだね・・・」

そのつぶやきに、男鹿は年齢に不相応な笑顔で応え、再び、かかとを鳴らし始めた。

 

・・・もう一度だけ会おう。

今度、会う時は、私のフラを見てもらおう。フラの素晴らしさを教えてあげよう。

私がどれだけフラを愛しているか伝えたい・・・。

 

銀色のご飯の上でとろける一夜漬うにを見ながら、桜井サチは、素直にそう思っていた。

 

 Dscn1860

ぎょれん「一夜漬うに」は、トドックで好評発売中です。

コメント: 1

KAZU! 2008年2月26日 09:01

松紫さん!お早う御座います!お久し振りです!
きょうは、嬉しい話題でいっぱいですね!!実は、私も、ひまわり、が大好きです!ゴーギャンの焼き付く様な太陽を身体いっぱい浴びスクスクト太陽に
向かう姿、逞しくそれでいて可愛らしい!!それに
フラメンコ!私のフランス時代の奥様がスペインの
アンダルシアのフリヒリアーナのジプシー一族でフラメンコは大変上手でした!特に唄は放浪の民の悲哀を切々と力強く謡うのです!!因みに、ジプシー
とは、北インド辺りの住居を持たない放浪の民の事を云い!ジプシーはエジプトの放浪の民をエジプシャンを短くしてジプシーと成りました!ローマからの放浪の民を「ロマ」とも言います!!
オーボワール!ムツシュ!ア・ヴイアント!!

コメントフォーム

誹謗中傷や悪意のある書き込み、営利目的などのコメントを防ぐために投稿された全てのコメントは一時的に保留されます。また、コメントの投稿について、詳しくは「ブログの使い方」ページをご覧ください。

Insert Emoddy tag

トラックバック: 0

この記事のトラックバックURL
http://blog.todock.com/mt/mt-tb.cgi/11348
この記事へのトラックバック一覧
新・個室『銀杏の間』にて ~一夜漬うに~ from 割烹ゑびす

ホーム > 個室「銀杏の間にて」 > 新・個室『銀杏の間』にて ~一夜漬うに~

ブログ内検索
お気に入り・フィード購読
個別バナー
QRコード
携帯でも割烹ゑびす
http://blog.todock.com/mt4i/ebisu/
HELPバナー
共通バナー
Google アドセンス

ページの上部へ