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個室『銀杏の間』にて ~第十八話~

埃にまみれたケースから、オベーションのギターを取り出す。

2年前、弦を切ってから、このギターケースの中で、ずーっと眠っていた・・・。

私は、カラオケも苦手なので、音楽はもっぱら聴く方専門だが、このギターは、10年以上も前に、勢いで山野楽器で買ったものだ。

オべーションを弾いて、歌っているロックシンガーを見て、カッコいい!と思ったのがきっかけだ。

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オベーションと言えば、枯葉をモチーフにしたリーフホールのアダマスが有名だが、私が持っているのは、通常のセンターホールのギターだ。

エレクトリック・アコースティック・ギター。略して、エレアコと呼ばれている。

私は、ローコードしか押さえることが出来ないし、チューニングマシンを使わないと、チューニングも出来ない。

”ひまわり畑”の次は、プレイボーイの新垣さんの教えに沿って、”プロポーズ②自作の歌を贈る”を実行する訳だが・・・。

う~ん・・・、どうしよう?

 

当然、私にオリジナル・ソングを作る才能など無いので、何か曲をプレゼントしようかと思案している。

やはり、”まったり”するような曲がいいだろう。ロックバラードではなく、ポピュラーソングの方がいい。

「ミー・アンド・ミセスジョーンズ」でも歌えば、”まったり”とするかもしれない・・・。

ジェームス・ブラントの「ユア・ビューティフル」とか、エルトン・ジョンの「ユア・ソング」とか・・・。

・・・そんな歌唱力ないか・・・ははは・・・。

それに、英語じゃ意味が伝わらない。まあ、意味も分からず歌う訳だから当然だけど・・・。

日本のポップスの中にも、多くの珠玉のラブソングがある。

BIGIN「恋しくて」、サザン「いとしのエリー」、チャゲ&飛鳥「SAY YES」などなど、並べると随分とベタだが、いずれも名曲だ。

最近では、宇多田ヒカルの「フレーバー・オブ・ライフ」がいい。ミスチルもドリカムもコブクロも、いい歌を歌っている。

自分の好きな曲を聴かせればいいってものではない。それは、自己満足の度合いが高く、失敗に繋がるケースだ。

そう言うホロ苦さは、過去に何度も経験済みだ・・・。

今回は、尚且つ、ギターでコードを弾かなければ、カッコがつかない。

なんとしても、ナナコに思いを伝えなければならない!

メロディーにのせて・・・。

 

心の琴線に触れるメロディーというのがある。

多感な思春期の頃は、無防備な心にズッキン!ズッキン!と響いてきた歌が何曲もあった。

いい曲、いい歌に出会うと、今でも思春期が続いているんじゃないかと、・・・そう思える瞬間がある。

 

そのメロディーと声を初めて聴いたのは、ちょうど思春期の頃だったと思う。

中島みゆき・・・。なぜか、心の琴線に触れた。

”3年B組金八先生”の第二部で、校内暴力のテーマを扱ったのを憶えているだろうか?

加藤と松浦が警察に連行されるシーンで流れた曲が、確か、中島みゆきの「世情」・・・。

シュプレヒコールという言葉が、私の記憶に残っている。

TV画面のスロー映像と合っていて、なんてもの悲しく、切なく、やるせないような声、メロディーなんだろうと、私は、ある種の衝撃を覚えた。

 

それから、「悪女」、「化粧(桜田淳子)」、「かもめはかもめ(研ナオコ)」、「時代」が私の心にそっと触れ、通り過ぎていった。

最近では、「ファイト!」、「空と君のあいだに」、「地上の星」はプロジェクトXのテーマ曲で有名だ。「宙船」はTOKIOが歌っている。

これらの曲は、勇気と元気が出る応援歌だが、私の心の琴線には触れない。

やはり、「時代」だろう・・・。

♪今はこんなに悲しくて 涙もかれ果てて♪

早速、ギターをかき鳴らした。

この曲は三連符か・・・。D7、Gm、C7、Fとコードを押さえる。ジャジャジャ、ジャジャジャ、ジャジャジャ、ジャジャジャ・・・。

気持ちだけは、ミュージジャンになる。

 

12月ともなると、さすがに、風が痛く感じる夜もある。

『割烹ゑびす』銀杏の間で、何度もため息をつきながら、私は、ナナコを待っている。

緊張している・・・。

左手は、無意識にFコードとかC7とかDmの形で動いている。

ふー。

大きく息を吐き出し、私は、堪らず”田酒”を頼む。

 

スッ。襖が開く。

ナナコと田酒は、ほぼ同時にやって来た。

「田酒をお持ちしました」

と、ベビーフェイスの女将が言い、

「先にひとりで飲んでるなんて信じられなーい!わたしも”上善”お願い!」

と、ナナコが怒った表情の笑顔で言う。そして、はにかんだ表情をする。

最近、ナナコは、どこか照れ臭そうな、はにかんだ表情をすることが多い。・・・気のせいか・・・。

「お刺身も用意しますね」

女将は、そう言って襖を閉める。

スッ。ピキーン。

一瞬、私は、銀杏の間に張り詰める空気を感じる。

 

卓に運ばれたのは、秋鮭の刺身だ。

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秋鮭の刺身と言えば、最近話題の斜里産の原料を使った”鮭だけさ”。私は、ルイベで食べたが美味しくて良かった。食感がいい・・・。

だが、今ここにあるのは、”鮭だけさ”ではない。身の表面を軽く炙ることで旨みを閉じ込める、”炙り”の工程が入っていない。

これは、オレンジ色が発光したような、いい色をしている。

こ、これは・・・?

私は、お腹が空いたヨークシャーテリアのように、女将を見て、答えをねだる。

「・・・。これは、日高産の秋鮭のお刺身です。銀毛の鮭のオスを使っています。召し上がって下さい。驚きますよ。ふふ」

私とナナコは、顔を見合わせ、ひと口。パク。

・・・う~ん。ペチャっとした食感がまるで無い!余分な水分がなく、旨みが凝縮されている。臭みもない。これは・・・ピチットシートか?

日高の鮭と言えば、頭に浮かぶのは”銀聖”。

2000年に、日高定置漁業者組合が定めたブランド鮭だ。ブランド魚の先駆けと言っても、過言ではないだろう。

日高沖で獲れ、銀毛の鮭の中でも特に良品で、3.5キロ以上のものが選別される。それが”銀聖”だ。

太陽光の下での選別が、最も色目の判断が出来ると、聞いたことがある。銀色の輝きが明らかに違う、と言う。

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銀毛の鮭が、更に幾つにも選別される。厳しい選別なくして、ブランド力が上がることはない。

そんな思いを巡らせながら、もうひと口。パク。

う~ん、・・・美味しい。

 

やはり、・・・これは、えりも産か・・・。

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えりもは、黒潮と親潮が合流する栄養の豊富な漁場だ。”鮭街道”と呼んでいると聞く。

一番若い時期の鮭が獲れるので、肌目も銀毛で色目もレッド。卵にも白子にも栄養が取られていないから、鮭自体の味が申し分ない。

もうひと口。パク。

この味に、私は、これからナナコに曲をプレゼントすることを、一瞬忘れる。

「ねぇ、銀毛って何?」

ナナコは、そう言ってひと口。パク。声になっていないが、潤ったルージュの唇の動きが、お・い・し・い、と言っている。

・・・。皮目のことだよ。銀毛からブナ毛へと変わるんだよ。

鮭って、川へ帰るだろう。その川へ遡上する時に、皮目が変化するんだよ。銀色から黄色や赤色を帯びてくるんだ。婚姻色って言うんだけど。

それをブナ毛って呼んでいて、AブナからDブナぐらいまであったような気がするなあ。

つまりさ。カムバックサーモン!カムバックナナコ!ってことだよ。・・・違うか・・・はは・・・。

「・・・へえ~」

なんとなく冷めた返事を聞くと、急に、曲をプレゼントすることを思い出し、私は、にわかに緊張する。

ふー。

 

スッ。

女将が料理を運ぶように、オベーションのエレアコと木製の椅子を持ってきた。

「ギターでございます」

「えっ?」

ナナコは、驚いた表情で、女将と私の動きを見ている。何が始まるの?という不安から、言葉もなく、ただただ動きを追い続けるだけだ。

プレーンな木製の椅子の座る部分は白い革張り。そこに、私が座り、女将がギターを手渡す。

合っているかどうかも分からないチューニングを確かめるように、私は、ひと鳴らし。

ジャーン!

ナナコ・・・。

私は、ナナコの目を真剣な表情で見つめ、何も言わずに聞いて欲しい・・・、とひと言。

 

♪今はこんなに悲しくて♪

と歌い出し、右手は、ダウンストロークで三連符を鳴らす。ジャジャジャ、ジャジャジャ。

緊張で声が震え、コードを押さえる左手もスムーズに動いていない。

多分、上手く歌えてはいないだろう・・・。だが、歌うしかない!

コードが走り過ぎないように注意して、私は、意識を集中させる。

(とにかく・・・、間違ってもいい!緊張感の伝わるプレイをしろ!)

プレイボーイの新垣さんの声が聞こえる。

♪まわる まわるよ 時代はまわる 喜び悲しみ繰り返し♪

F、Dm、B♭、C7と、左手が動く。

♪今日は別れた恋人たちも 生まれ変わって めぐりあうよ♪

 

サビが終了し、Aメロへと行く時、チラリと、ナナコの表情を伺う。

うっとりとした表情ではないが、優しい表情で、耳を傾けてくれているように見える。

ほっ。・・・良かった~。

と、思ったその時だ。

うるさい!!下手くそ!!もっと練習してからやれ!!帰れ!!邪魔!!

銀杏の間は、防音ではない。

隣の部屋からも、その隣の部屋からも、カウンターからも怒号が聞こえてくる。

私は、くじけそうなり、次のFコードのダウンストロークを躊躇している・・・。

怖がるナナコを見て、自分のしている行為が情けなく、意味のないことのように思えてくる・・・。

一瞬の静寂。

ごめん・・・と言って、ギターを置こうとした時に、また、誰かの声が響いた。

 

♪旅を続ける人々は いつか故郷に出会う日を♪

歌だ・・・。

私は急いで、その歌声に合わせてギターを鳴らし、後を追って、一緒に歌い始める。

♪きっと信じて ドアを出る♪

一人の声が二人に、そして、また一人、また一人と、声が増えていった。

合間に、ガンバレー!という声も聞こえてくる。

♪めぐる めぐるよ 時代はめぐる 別れと出会いを繰り返し 今日は倒れた旅人たちも 生まれ変わって歩き出すよ♪

『割烹ゑびす』が、いつしか大合唱に包まれている。

♪今日は別れた恋人たちも 生まれ変わって めぐりあうよ♪

 

曲が終わると、パチパチパチと、まばらな拍手が聞こえてくる。

今度は、私がはにかみながら、ナナコを見つめる。

紅潮した顔。・・・言葉はないが、私に優しく微笑みかけてくれる。

あっ!口角の上がったナナコのいつもの笑顔だ。

「貸して!」

ナナコは、そう言って、私の手からギターを取り上げる。

ジャーン!

しなやかに動く指先・・・。

間もなく、銀杏の間に、ドリカムの「LOVE LOVE LOVE」が響いた。

  

 

日高産の天然鮭を使用した「銀さし造り(お刺身用)」は、08年2月にトドックで発売いたします!今しばらく、お待ち下さい。

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店舗では、コープ厳選「鮭だけさ」が大好評発売中です!お店で見かけたら、是非!

 

コメント: 2

KAZU! 2007年12月 5日 05:26

まっちゃんへ!今回のは「めちゃ!マニアックですね!!(笑い)」今夜の様な場面の時の詩は!
やはり!エルビス様の「are you long some tonight!!?]と言うバラッドでも!如何ですか!
「今夜は一人かい??」と言うタイトルです!
次回も楽しみしています!!
オーボワール!ムツシュ!ア・ヴイアント!!

松紫 2007年12月 5日 08:53

コメントありがとうございます。
オールディーズは、今でもよく聞いています。
さすがに、皮ジャン(ライダース)とポマードは付ける機会が減りましたが・・・。

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