生活協同組合コープさっぽろで、安心生活はじめましょう。

ホーム > 個室「銀杏の間にて」 > 個室『銀杏の間』にて ~最終話~

個室『銀杏の間』にて ~最終話~

今年もあと数日で終わろうとしている。

陽はすっかり傾いていて、辺りは、夕暮れの寂しさにすっぽりと覆われている。

私は、高速を飛ばし、空港へと急いでいる。

ナナコに、何か、大切なことを伝え忘れているような気がして・・・。

何か、もっと言うべきことがあるような気がして・・・。

モヤモヤとした気持ちを抱えて、アクセルを踏み込んでいる。

 

数日前のクリスマス・イブ。

私とナナコは、『割烹ゑびす』銀杏の間で食事をした。

降り積もったばかりの雪に、通りのイルミネーションが映えて、キレイに見える。

風景を切り取ると、絵葉書になりそうなシーンが、街中のあちらこちらに溢れていた。

いつ頃からだろう?クリスマスが特別な人と過ごす、特別な時間になったのは・・・。

クリスマスなんて関係ないよ、って無視してもいいけれど、特別な一日にしておいた方が、人生は、きっと楽しいはずだ。

男性より女性の方が、人生の楽しみ方を知っているような気がする。

誕生日とかバレンタインとか卒業式とか、特別な日は多い方が、人生は楽しい。

 

”今夜は、特別な夜にしよう!”

『割烹ゑびす』へ向かう遊歩道で、私は、そんな決心をしていた。

ナナコに贈るプレゼントは、ハートの形にデザインされたパールのネックレスにした。

私は、あれこれと悩んで、買い物はしない。直感、インスピレーションで買うことの方が多い。

失敗もあるが、あの時、買っておけば良かった~、という後悔もない。

ナナコを待っている短い時間、私は、パールのネックレスの入ったリボンの付いた袋を見て、ニヤニヤとしていた。

プロポーズの答えを聞いて、ハッピーエンドになることを夢想している。

店内には、山下達郎の「クリスマスイブ」の英語バージョンがボサノバ風にアレンジされ、女性ミュージシャンの甘い声で流れている。

 

カツカツカツカツ、とブーツの靴音が近づき、スッ、と襖が開く。

ファーの付いた白いコートを右手に抱えて、黒いワンピース姿のナナコが入って来る。

ひじの近くまである、ロングの黒い皮の手袋とクラシカルなデザインの黒いワンピースが、知的でクールに見える。

髪をアップにして後ろでまとめているので、顔立ちのシャープさが一層、際立って見える。目元の青いラメがキラキラとして、チャーミングだ。

随分と、大人の女性に見えて、私の心臓は最大限にドキドキしている・・・。

私は、ナナコの薬指に、銀色の指輪が嵌められていることを、そっと確認する。

それは数ヶ月前、もう一度チャンスをくれないだろうか?とナナコへ捧げた二度目の結婚指輪だ。

今はイエスともノーとも言えないわ、と悲しげな表情で返事をされたが、指輪は、再びナナコの薬指へと戻ったのだった。

 

さあ、まずは食事だ。

「そうだね」

子持ちはたはたの焼魚、やりいかのお造り、たちポン、地鶏の炭火焼、お新香の盛り合わせなどに混じって、えびフライがテーブルに並ぶ。

えびフライか・・・。

私は、子供の頃のクリスマスの食卓を思い浮かべる。

鶏の唐揚げとえびフライとサイダーとポテトチップスとバタークリームのケーキを食べたことを思い出す。

中でも、えびフライはご馳走で、年に数回しか食卓に上らなかったような気がする。

ノスタルジックな気分で、私は、田酒をグビリと飲む。

 

「このえびフライ小さいと思ったけど、シッポがないんだね」

ナナコは、箸でえびフライをつまみ、まじまじと見つめて、そうひと言つぶやく。

えっ?あっ、ホントだ。

私もシッポがないことを確認して、ひと口でパクッ。

ナナコもひと口でパクッ。大きく口を開かなくても十分食べられる大きさだ。

私は、女将を呼び、ケチャップを頼む。

「え~、ケチャップって・・・。子供みたいじゃない!」

それがいいんだよ。へへ。

「飲み物は、日本酒なのにね」

それもいいんだよ。へへ。

私は、今夜がクリスマス・イブというだけで、気分が高揚している。楽しい予感が、更に、気分を盛り上げている。

 

えびフライの黄色い衣の横に、赤色のケチャップが添えられる。

180g

女将がそれを見て、美味しそうですね、と言って微笑む。

その笑顔を見て、私は、本当にベビーフェイスだなあ、と思いながら、えびフライにケチャップを付け、パクッ。

う~ん、懐かしい味・・・。

それにしても、シッポがないにしても、このサイズは・・・、バナメイか?

「ブラックタイガーえびです」

女将が、私の怪訝そうな表情を見て、フォローのひと言。

そうか・・・。このサイズでブラックタイガーえびか。

私は、もうひと口。パクッ。

・・・なるほど、小さいけど身が締まっていて、プリプリ感がある。

ナナコも食べてみなよ。

ナナコも嬉しそうに、ケチャップを付ける。パクッ。

「子供の頃の味がするね。オイチー!ねえ、この言い方、可愛くない?」

可愛いー!

クリスマス気分とえびフライのせいで、ナナコも私もハイテンションだ。

 

今夜、この流れに任せて、プロポーズの良い返事がもらえるかもしれない!

私は、そんな思いで、パクッ。パクッ。パクッ。

やはり、このプリプリ感は、ブラックタイガーえびだよ。

ねえ、ナナコ知ってる?ブラックタイガーえびって名前、よく聞くと思うけど、俗称なんだよ。和名は”うしえび”って言うんだよ。

「へー、タイガーなのに”うし”なんだー」

そう言って、ナナコは無邪気な表情でケラケラと笑う。

そして、この旨み!多分、生から加工しての産地一回凍結だな。やはり、風味が違う!

更に、この風味を生かすサクサク感!細かいパン粉だ。6mmか?この香ばしさは、軽く焼いたパン粉を使っている・・・。

絶妙なのが、この衣比率だ。

通常、えびフライの衣比率は、45%~65%と言われている。

多分、このえびフライは、50%をちょっと超えたぐらいだろう。

180g_2

美味しい!と感じる衣比率というのがある・・・。このえびフライは、この衣比率以外、有り得ない!

 

私は、このような事を声に出して言ってしまう。

ナナコも今夜は、なるほど、なるほどと、聞いてくれているようだ。

視線を送ると、口角が上がったいつもの笑顔で答えてくれる。

「美味しいね」

オイチー!と私はおどける。

今夜は、全てが上手くいきそうだ・・・。

 

私は、誇らしげにナナコへプレゼントを手渡す。

開けてみてよ。

ナナコのリアクションは予想通りで、とても嬉しそうだ。

袋を開け、小さい皮袋から取り出されたハートの形のパールのネックレス。

「つけてみていい?」

いいよ。

今日の黒いワンピースに、とても良く似合っている。

「ありがとう。嬉しいよ・・・」

艶っぽい声色で、そう言われると、私は照れて、ナナコの顔を直視できない。

頭の中に、ナナコのはにかんだ笑顔の残像が浮かんでいる。

 

「私からのプレゼントはこれ・・・」

キレイにラッピングされた袋を開けると、中には、黒い石のついたブレスレットが入っていた。

「それ、黒サンゴなの」

へえー。

私は、石の事は詳しくないのに、手首に嵌めて、まじまじとその黒い石を見つめる。

黒サンゴは、光を吸い込み、キャッツ・アイのような妖艶な輝きを放っている。

すごい・・・。魔力が有りそうな石だね。

素直な感想をナナコに告げる。

「・・・貴重な黒サンゴは、ラハイナ沖に生息しているの・・・」

・・・ふ~ん。

「・・・わたし・・・、ハワイへ行くの・・・」

えっ?・・・お正月の旅行?

ナナコは、うつむいて、静かに頭を振る。

「・・・違う。・・・フラのさ・・・、フラの勉強をしに行くの・・・。迷ってないよ・・・」

えっ?ナナコの突然の告白に、私は、すっかり動揺し、頭の中が混乱している。

真っ赤な目をしたナナコが、真っ直ぐに私の目を見つめている・・・。

 

 

・・・夢だったもんなあ・・・。

やっとの思いで、私はそう言い、唇をかみしめる。

「・・・そうだよ。・・・夢なんだよ・・・」

・・・。

「・・・」

沈黙・・・。それは、永遠よりずっと長く感じられる、短い沈黙・・・。

ボサノバが静かに流れている。

・・・特別な夜になっちゃったね・・・。

 

空港のパーキングに車を止め、私は、駆け足で出発ロビーへと向かう。

そこには、たたずむナナコがいて、誰かを探すような寂しい目で、辺りを見回しているように見える。

アナウンスの声にかき消されないように、私は、ナナコー!と叫びながら、一秒でも速く、という思いで走り寄る。

自然とナナコの両肩を抱き、力強く引き寄せる。

私が抱きしめようとするより早く、ナナコが私の胸の中へ身体を預けてきた。

「・・・」

・・・行くなよ・・・行くなよ。・・・もう、離れたくないんだよ・・・。

強く抱きしめ、思わず出た言葉・・・。

そうだ・・・。伝えたい思いは、これだった・・・。

「・・・ありがとう・・・。でも・・・、夢だから・・・」

いやだよ・・・。離したくない・・・。

「・・・。またね・・・」

スッ、とナナコの身体が、私の腕をすり抜け、離れてゆく。

どんどん遠くなるナナコの後姿。小さくなる後姿。

振り向かない後姿・・・。

ナナコの左手が大きく振られている。薬指のリングが、キラキラと光っている。

 

 

 

Photo_14  

悲しい時も、切ない時も、えびフライにケチャップを付ければ大丈夫!

「パクッとえびフライ」はトドックで好評発売中です。紙面で見かけたら是非!

コメント: 1

KAZU! 2007年12月18日 13:09

まっちゃんへ!余韻を残して〆てくれたね!!
最後に流れるメロデイーはエビフライだけに!!??「フライ・ミー・ツウ・ザ・ムウーン!」
月へ飛ぶ思いだね!!!??笑い!!
次回も楽しみ!!

コメントフォーム

誹謗中傷や悪意のある書き込み、営利目的などのコメントを防ぐために投稿された全てのコメントは一時的に保留されます。また、コメントの投稿について、詳しくは「ブログの使い方」ページをご覧ください。

Insert Emoddy tag

トラックバック: 0

この記事のトラックバックURL
http://blog.todock.com/mt/mt-tb.cgi/11187
この記事へのトラックバック一覧
個室『銀杏の間』にて ~最終話~ from 割烹ゑびす

ホーム > 個室「銀杏の間にて」 > 個室『銀杏の間』にて ~最終話~

ブログ内検索
お気に入り・フィード購読
個別バナー
QRコード
携帯でも割烹ゑびす
http://blog.todock.com/mt4i/ebisu/
HELPバナー
共通バナー
Google アドセンス

ページの上部へ