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個室『銀杏の間』にて ~第十四話~

冬の夜空。冬の海。冬の花火。冬の雨。

寒さに空気がキリリと引き締まって、目に映る風景が、やけに澄んで見える頃・・・。

冬が始まる11月は、そんな季節の始まりでもある。

今夜、夜空の瞬きが多く見えるような気がするのも、きっと、そのせいだろう。

・・・11月は、私にとって特別な月だ。

ナナコと結婚式を挙げたのが11月だった。

よく晴れた日曜日だった。

別れた今は、いい思い出でもなく、悪い思い出でもなく、ただただ特別な日として、私の胸にシコリを残している。

今夜、私は、ある決意を持って、ここ『割烹ゑびす』の銀杏の間でナナコを待っている。

 

ある決意を持った人には、必要なものがある。

それは、そっと背中を押してくれる何かだ。

家族かもしれないし、親しい友人かもしれない。初めて会った誰かかもしれないし、特別な思い出かもしれない。映画や音楽かもしれない。

私の場合のそれは、一通の手紙だ。

だが、それは、私宛の手紙ではない。

二十歳を過ぎた頃、引っ越したばかりのアパートに置き忘れられた一通の手紙。下駄箱の中で、見つけて欲しそうに入っていた手紙だ。

悪気はなく、私はその手紙を読んでしまい、今も捨てられないままでいる・・・。

友人に宛てた手紙か、兄弟に宛てた手紙だろう。

・・・。

 

隆志、元気か?

お前が上磯を出てゆくと言った時は驚いたけど、正直怒りも感じた。

今思えば、お前の決意と行動力に嫉妬していたのかもしれない。

そっちで上手くやっているのか?

まぁ不器用で口下手なお前のことを考えると、上手くやっているとは思えないけど・・・。

俺は、親父の後を継ぐことにしたよ。

いろいろあったけど、最終的に俺の出した結論だ。

応援してくれ!

お前はそっちで頑張れ!みんな応援してる!

俺もあきらめないから、お前もあきらめるなよ。

甘えている訳じゃないけど、昔からみんなでなんとかやってきたじゃん。

今度、会ったらまたバカな話をしよう。

カッコつけてないで、お盆には上磯に戻ってこいよ!

待ってるぞ!

 

・・・。

今夜の私の決意。・・・それは、プロポーズだ。

 

スッ、と襖が開く。

ナナコが黒皮のロングブーツを脱ぎながら、私の方を振り向き、笑顔をよこす。

「寒いね」

もうすっかり、冬の装いだな。

「そうなの!これも買っちゃった。ワンピ風のコートが今年の流行なの。このAライン、分かる?」

そう言って、ポーズを決める。

口角が上がったナナコの笑顔は、どの角度からでもキレイに見える。

不思議な魔力のある笑顔だと思う。

その魔力の虜となり、”もう一度やり直したい”という決意を新たにする。

その前に・・・、まずは、食事だ。

 

テーブルの上には、鍋がセットされている。

土鍋のふたを開けると、粒の大きいカキが入っている。

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「カキ鍋です」

そう言って微笑み、女将はコンロに火を点ける。

「今日は、カキづくしなんですよ」

その台詞を待っていたように、すぐに生カキとカキフライが運ばれてくる。

やはり、粒がでかい!

生カキには、レモン汁を。カキフライには、タルタルソースをたっぷりと掛けて食べたい・・・。

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目を閉じるだけで、容易に想像が出来る。・・・フライの衣をかじった後に、口に広がるジューシーさは格段だ・・・。

 

「カキは、知内産です。

なんでも、津軽海峡、外海で養殖されるカキは珍しいとか。速い海流で育ったカキは、殻が大きく、身が締まっているんですよ。

”海のミルク”って言われているぐらいですから、グリコーゲンにビタミン、カルシウム、鉄分、タウリンとか、栄養が大変豊富なんです」

「今年っていうか、今シーズン、カキ食べるの初めてー!」

私もそうだ。

日本のカキと言えばマガキ。秋から冬にかけてが旬だ。

産卵期は、精巣と卵巣が増大し、食用にはならない。

英語に”R”の付かない月が産卵期だ。May(5月)、June(6月)、July(7月)、August(8月)がそれに当たる。

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生食用の知内産の生むきカキは、塩分濃度を海水と同じ濃度にしている為、カキ本来の味が伝わってくる。

私は、特別大きい粒を選んで、ひと口。

う~ん。濃厚な味わい・・・。海のミルクと言うよりも、海のコンデンスミルクの称号が相応しい。

欧米でも、カキは生食文化として発達している。

生カキとワインを愉しむ”オイスター・バー”と言うのがあると聞く。私はまだ、行ったことはない。

 

そんなことを考えていると、白ワインを、と思ったが、勢いのつく日本酒を頼むことにする。

私は田酒を頼み、ナナコは上善如水を頼む。

 

”もう一度やり直したい”という気持ちを伝えるきっかけを、私は探している。

田酒がコップからこぼれて、トクトクトクと、升をいっぱいに満たしてゆく時の音。

グツグツグツと、沸騰している鍋の音。

カキフライをかじる時の、サクサクサクという衣の音。

どれも、タイムリミットを告げる秒読みに聞こえてくる・・・。

 

ナナコ・・・、このカキフライ美味しいよね。洋食メニューが発展した明治時代の後期に、銀座の洋食屋さんから生まれたらしいよ。

「へぇ~」

・・・どうでもいい話だよね・・・ははは、・・・ねぇ、ナナコ・・・。

やっとの思いで、私は、決意を言葉にする。

離婚の結論を出した夜に返された指輪を、ナナコの手のひらにそっと渡す。

もう一度、チャンスをくれないだろうか?と私は、頼りない小声で言う。

プロポーズのつもりだが、こんなに中途半端な台詞を許してくれる女性はいないかもしれない・・・。

返された指輪は、捨てることが出来ずに、ずっと引き出しの奥に仕舞っていたことを、正直に告白する。

「・・・指がデブっちゃって、入らないかも・・・」

そんなことはない、と私は言う。

ナナコは、左手を大きく広げ、自ら薬指に指輪をはめる。

細くしなやかな指・・・

スッ、とはまる銀色の指輪。

ナナコは、左手を目の前にかざして、優しく微笑んでいる。

銀杏の間の照明に、かざされた左手の指輪が光り、その向こうにナナコの潤んだ瞳が光っている・・・。

「・・・プロポーズの返事は、今はイエスともノーとも言えないわ。

・・・ごめんね。・・・でも、嬉しい・・・」

そうか・・・。

私は、それ以上の言葉が見つからず、黙り込むしかなかった。

「・・・お鍋食べよっか」

・・・そうか。

熱が通って、プリップリッになった知内かきを、私はひと口。ナナコもひと口。

熱っ、熱っ、熱っ。

口中に広がるこの旨みは、タウリンか?グリコーゲンか?良質なタンパク質か?

今は、この旨みに夢中になって、私は、何個も何個もカキを食べ続ける。

じわ~っと、熱いエネルギーが沸いてくるのが分かる。

そして、エネルギーと一緒に、身体中にみなぎる、ある言葉。

”あきらめるなよ!”

 

私は、カキを頬張りながら言う。

・・・ナナコ。・・・また、プロポーズしてもいいか?

 

「知内かき」は、いよいよ店舗での販売がスタートしました!

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知内かきを使った「獲れたてカキフライ」は店舗、トドックで好評発売中です。

見かけたら、是非!

コメント: 4

KAZU! 2007年11月 6日 09:04

松紫さん!相変わらず文才があるよね!!
文学ではなく君のは文樂(ぶんがく)の方だね!!
実に素晴しい表現力です!それと「やはり生かきには日本酒です!それも純米の大吟醸ならどんなワインも舌を巻く位美味しいですよ!!」何時もながら
最後の商品紹介迄パーフェクトですね!
因みに!ナナコは承知したも同然です!何故なら
女性は何時も焦らすものです!!!!

小人 2007年11月 7日 21:47

最終回…?

松紫 2007年11月 8日 12:09

コメントありがとうございます。
励みになります!
もう少し続けさせて下さい・・・。

小人 2007年11月 8日 20:59

安心しました。

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