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個室『銀杏の間』にて ~第十三話~

都会という名の荒野・・・。

私は、『割烹ゑびす』銀杏の間で、ナナコを待っている。

テーブルの上に両ひじをつき、顔の前で両手を組んで、虚ろな視線で待っている。

・・・憂鬱だ。

人の心が通わない、殺伐とした世の中。

そういう世の中でしか生きていけず、そういう世の中の方が似合ってしまうほど、汚れた自分がここにいる・・・。

誰かに、狙われているような気がする。

やけにキナ臭い夜。

今夜も事件が起こりそうだ・・・。

意識的ではないが、私は、ニヒルな笑みを浮かべる。・・・ふっ。

 

店内に流れるボサノバの音の向こうに、カツカツカツとパタパタパタのふたつの音が近づいて来る。

どっちだ?

ナナコか?女将か?それとも、他の誰か?

私は、襖の方へ寄り、そして、死角へと回り込む。中腰の姿勢で構え、襖が開くのを待つ。

スッ。

ナナコだ。その後ろに、女将のベビーフェイスが見える・・・。

ナナコは視線を巡らせ、右斜め下で身を潜めている私を発見する。

「・・・何してんのよ?」

冷ややかな視線とちょっと怒った口調でナナコが言う。

大丈夫だったか?誰にも追われなかったか?

私は、努めて静かな、低い声で答える。

「大丈夫って、何がよ!」

いや、大丈夫ならそれでいい。

襖の向こうで、誰かが怪しい眼を光らせていないかを確認して、私は静かに、そして、速やかに襖を閉める。

「本当に、何してるわけ?」

ナナコの怒った口調に、私は意識したニヒルな笑顔で答える。・・・ふっ。

「・・・ハハ~ン。・・・分かった。いつもの病気だ・・・。

ハードボイルドの映画観たでしょう?それとも24シーズン6のビデオを観たか、北方謙三の小説でも読んだんでしょう?」

・・・。

「それとも、松田優作?まぁ、どうでもいいけど・・・」

(さすが、ナナコだ・・・。ほぼ98%当たっている・・・)

昨夜、私は、ケーブルテレビでハードボイルド特集を観ており、どっぷりと、その世界に浸かったまま、今を迎えている。

 

「・・・さてと、お酒、何飲もうかしら?まずは、シェリー酒ね・・・」

ナナコは、私を現実の世界へ戻そうと、口角の上がった笑顔で優しく迎え入れるように、見つめてくる。

しかし、今回の私の病気は、なかなか手強かった。ナナコの笑顔でも治らない・・・。

ふっ。・・・女の笑顔に騙されるのはいつものことだ。もともと、男と女の関係なんて、駆け引きだろう。

駆け引きの後は、決まって虚しさが襲ってくる・・・。そんなことに、最近少しだけ嫌気が差しているだけさ・・・。バーボンをロックで・・・。

「その前置きいらないじゃん!それに、いきなりバーボンってさ・・・」

”ローリングK”そいつが、私のバーボンだ・・・。

”リッケンバッカー”それは、オレのギターだ・・・。とキース・リチャードが言うように、私は言う。

安物のバーボンだが、二十歳の頃からの付き合いでね・・・。古い友人なんだよ・・・。

 

ベビーフェイスの女将がシェリー酒とバーボンのグラスを運んでくる。

サンキュー。

そう言って、私は指を鳴らす。パチン!

「・・・。

・・・今夜は、寒いので、おでんをお持ちしますね」

「おでん大好き!」

ナナコと女将が笑い合う。この人に構わない方がいいよ、と私を指差し、小声で確認し合っている。

いいさ。言いたいヤツには、言わせておけばいい・・・ふっ。

 

それにしても、おでんか・・・。

私は、薄い昆布ダシに浸かった大根、玉子、竹輪、はんぺん、ごぼう天、薩摩揚、つみれ、つぶ串などを思い浮かべる。

やはり、練り物は欠かせないな、と独り納得し、静かにうなずく。

おでんの原型とされているのが、味噌田楽、田楽と呼ばれる、具を串刺しにして焼いたものだ、と聞いたことがある。

きっと、海水浴場の海の家で頼むおでんが、それに近いのだろう。

具を茹でた煮込みの田楽を”おでん”と呼ぶようになったと言う。

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当時は、醤油味の濃いダシで煮込まれており、”関東炊き”と呼ばれていた。

私は、昆布ダシの薄味、関西風のおでんの方が好みだ。

まだ若かった女将と、すすきのの京風のおでん屋に行った夜のことを思い出す・・・。

思い出してもしょうがない・・・、自分自身に苦笑し、小さく頭を振って、そんな思いを払拭する。

昔話でセンチメンタルな気分になるのは、もっと大人になってからでいい・・・。

 

薩摩揚は、おでんにはもちろん合うが、そのまま生姜醤油、わさび醤油で食べても美味しい。

いつか食べた、飛び魚100%の薩摩揚は、焼いていると、ほんわかと焼魚の匂いがしたのを思い出す。

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薩摩揚は、ちょっと甘めなのが特徴と言っていいだろう。

薩摩揚の名は、既に全国区だが、鹿児島では、”つけ揚げ”と呼ばれている。串木野が本場だが、そこでは、店の看板に”つけ揚げ”とある。

沖縄では、チキアーギと呼ばれている。

沖縄と言えば、さとうきび。砂糖は昔、専売特許だった。

薩摩藩が沖縄を統治し、チキアーギが鹿児島に伝わってきたと言われている。

ちょっと甘めの理由は、そんなところだ。

何にでも理由はあるが、その理由に縛られることはない・・・。

未来への扉を開けるヤツは、常に自由な発想を持っているものさ。・・・ふっ。

 

「お待たせ致しました」

女将が小さな土鍋をふたつ、私とナナコの前に置く。

からしと小皿はこちらです、とテーブルの片隅を指し、速やかに部屋を出てゆく。

土鍋のふたを開けると、立ち昇る湯気で、視界が一瞬にして真っ白くなる。

ホワイトアウト状態だ。ナナコが見えない!

ナナコいるかー?大丈夫かー?

「・・・はいはい。大丈夫ですよ~」

軽くあしらわれた感じだが、気にしない。

ナナコ、中を見てごらん。練り物がいっぱい入っているよ。

薩摩揚、平天、丸天、ごぼう巻きにウインナー巻き。そして、これは・・・!

危ない!!伏せろ!!

銀杏の間が震えるほどの大きな声で、私は叫ぶ。

同時に、テーブルの向こうへと飛び、ナナコをかばうように覆い被さる。

バクダンだ!!

「・・・。

・・・ちょっと・・・どいて」

ナナコは相当な呆れ顔で、私の体をゆっくりと退かせる。そして、溜息。

「それって・・・、おでんのネタでしょう?・・・バクダン。

薩摩揚にうずらの卵が入ったヤツ。・・・それと同時に、あなたの笑いのネタなんでしょう?ベタだし」

人間って、こんなに乾いた口調で喋れるんだ、と思うほど乾いている。これは、怒りか・・・?

・・・こんな話を聞いたことがあるかい?

男はまず、スピードに憧れる。その次はピストルだ。男ってのは、そういう生き物だってことさ。

「バカじゃないの!いい加減にしないと怒るわよ!・・・意味わかんない!」

・・・ふっ。

「あなたは、ハードボイルドじゃなくて、中身がトロトロの半熟玉子じゃない!」

ふっ・・・そんな夜もあるっ。

バチーン!!

最後まで言い終わらないうちに、ナナコの平手が、私の左頬にもの凄い衝撃を与える。

バチーン!!

続いて、右の頬。そして、また左。バチーン!そして右。バチーン!また左。バチーン!

 

・・・男は、タフでなければ生きていけない。

 

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これからが寒さの本番。”あったかおでん”を是非!

コメント: 1

KAZU! 2007年10月31日 12:40

まっちゃんへ!相変わらず良い~~ね~~!でも
何故ナナコはシェリー酒を頼んだのか読者の皆さんに説明した方が!!!?やはり男はタフでなければ
ならないのだ~~~!

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